「皇室文書」とはなにか?

A) 問題の発端


今回の「皇室文書」問題は、1で書くことになるが、すでに2010年の段階から始まっていた。
しかしこれまでの訴訟などとは異なり、途中経過を全く書いてこなかった。

なぜならこの問題は、非常にセンシティブな問題をはらむものだったから、こちらの意図を述べず、相手からできる限りの情報を引き出した方が良いという判断があったためだ。
また、説明も非常に難しいものであったので、すべて終わってからまとめて書くほうがよいかなとも感じていた。

B) 行政文書の定義と「皇室文書」


まず、公文書管理法施行後の「行政文書」の定義を改めて振り返ってみたい。

「行政文書」の定義は管理法の第2条第4号によって決められている。
これによれば、

①行政機関の職員が職務上作成または取得
組織的に共有
③当該機関が保有している

の3条件満たしたものが「行政文書」とされている。

なお、この「行政文書」は必ず「行政文書ファイル管理簿」に登載され、最終的には廃棄をするか、国立公文書館等に移管して永久に保存される。

ところが、宮内庁にはこの「行政文書」以外の「皇室文書」なる定義がされている文書が存在しているようなのだ。

C) 天皇の行為の三類型


ではなぜこの「皇室文書」というカテゴリーが存在するのか。
それは、宮内庁という組織に固有の問題がある。

天皇の行為は、政府見解によると現在3つに分けられる。

①国事行為・・・憲法上定められたもの。内閣の助言と承認が必要。首相の任命など。
②公的行為・・・憲法上には書かれていないが、公的なものと認識できるもの(内閣の助言と承認に基づいて行われているとされている)。行幸啓(イベント出席、慰問…)など
③その他の行為
a)公的色彩の強いもの・・・演劇鑑賞などの他に、大嘗祭などの宗教が絡むが公的な費用から支出されるもの
b)私的行為・・・私的な時間を過ごしている時。政教分離問題から、宮中祭祀もここに分類される。

そして宮内庁の職員は、基本的にはこの3つの行為の全てに関わっている。

このような細かい分類がなされているのは、日本国憲法を制定する際に、天皇の行えることに厳しい制限を付けたためである。
特に、内閣の助言と承認無しには政治的な行動を取れないという制限があるため、天皇の行為を明確化するために上記のような細かい分類が必要となった。

今回問題となるのは③のbの「私的行為」の場合。
つまり、宮内庁はどうしても天皇・皇室のプライベートな部分に職務上関わらざるをえない。
よって、上記した行政文書の3条件を満たす文書であれば、私的行為に関わる文書も、公文書管理法や情報公開法の対象となるのである。

私個人の見解としては、情報公開法などの「個人情報保護」が適用されれば、天皇・皇室に関するプライベートな情報は守れると思うのだが、宮内庁は私的行為に関わる自分たちの業務もできる限り隠すべきだとの見解をとった。

そこで、行政文書とは別に「皇室文書」なる概念が登場するのである。

D)「皇室文書」とはなにか?


それでは、この「皇室文書」とはなにか?ということである。
基本的には「私的行為」にあたる部分に関する文書ということになるようだ。
「ようだ」と言わざるをえないのは、はっきり言って定義が「よくわからない」のである。

そもそも、行政文書扱いではないので目録も公開されておらず、どういった文書が「皇室文書」にされているのかが、全くのブラックボックス状態になっているのだ。
つまり、都合の悪い文書を全部「皇室文書」に組み込むといったことに使われる可能性があるのだ。

私はこれはおかしいと思っている。
皇室のメンバー自身が書いたような文書はプライベートなものである以上、「皇室文書」として別置するのは構わないと思う。
しかし、行政官である宮内官僚が業務に関連して作成した文書は、例え内容に皇室のプライベートなことが書いてあってもそれは「行政文書」として扱うべきである。

ただし、もちろん私は皇室のプライベートを暴露しろとか言っているわけではない。
公開されて不都合なものは、情報公開法や公文書管理法の不開示規定を使ってしっかりとガードすれば良い。
「それではどちらにしろ見れないじゃないか」と思われるかもしれないが、「公開された目録に登載されている」ことの意味は大きい。

個人情報であったとしても、ある程度の年数が経てば、公開しても問題が無くなる情報もある。
例えば、江戸時代の皇族の個人情報であるならば、今であれば当時の文化を知るための貴重な歴史的な資料になりうる。

「いつ出すか」の部分は、ある程度の慎重さがあっても構わない。
だが「皇室文書」として目録から無くしてしまえば、その文書は「永久にアクセスできない」資料になってしまう。
だからこそ「皇室文書」という隠れ蓑は、基本的には許してはならない。
もしそれがどうしても必要なカテゴリーだというのであれば、その定義は明確にしてブラックボックス化しないようにしなければならない。

よって、「皇室文書」の定義自体が今回の審査で大きな争点となる。
今回の不服審査を私があえて行ったのは、この「定義」をはっきりさせることが目的であった。

それでは、なぜこのような一般的には存在すらわからない「皇室文書」の存在がなぜ発覚したのか。
そのあたり、次項から解説をしていきたい。